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「あのサービスをもう一度立ち上げたい。」
Hがその話を聞いたのは昨年9月のことだった。旅行会社から「以前一度失敗し撤退したが、今後のビジネス拡大に向けて、社運を賭けてリベンジしたい」というシステム開発の依頼。クレスコはこれまで旅行関連のシステム開発に多く携わっているため、その手腕を買われて提案の機会を得た。だが、提案依頼書から推測されるシステムの規模の大きさに正直驚きを隠せなかった。
「それは旅行会社の宿泊事業者向けWebサービスでした。宿泊施設の方がサイトに商品を登録し、コンシューマーに販売できるというサービスを提供するものになります。旅行会社のWeb顧客基盤を生かし、宿泊施設サイドで宿泊プランの登録や変更などを自由に反映でき、その後の管理まで一貫して行うことができます。さらに消費者のアクションを分析できることで次の戦略も立てやすく、宿泊事業者にとって、これまで以上にメリットは大きくなります。」
規模の大きさもさることながら、それにもまして驚かされたのは短い開発期間だった。リリースは翌年の7月1日。開発期間は1年にも満たないが、要望されている内容は膨大で、クレスコでもこの期間でこの規模の開発は例がなく、周囲からは「無理だろう」という声が上がっていた。
「このときはプロジェクトマネジャー(以下、PM)になりたてで、いつかは自分の手で顧客を開拓したいという想いがあったものの、大型開発案件への新規参入といえば困難を極めます。だからこそ目の前のチャンスを『決めたい』という気持ちは拭いきれず、腹をくくりました。これまでの経験を生かし、企画には顧客特性や他社の成功事例を盛り込み、もちろん現実的な工程や体制など、営業と私とであらゆる角度から提案書を練り上げていきました。そしてクレスコの技術や経験を踏まえた開発と実現可能性を含めた提案内容をお客様にプレゼンしたんです。」
最終的には既存のベンダーとの一騎打ちとなったが、渾身の提案書は顧客の心を掴み、見事受注を射止めた。
「喜ぶのも束の間、正直、自分も周りも『ヤバイものが取れた』という印象でした。まずは、できないだろうと考えていた人たちを説得して回り、最終的には社内でも大勢の人を巻き込んでのプロジェクトになりました。」
こうして、険しい道のりのプロジェクトがスタートを切った。

ゴールは明確でも、道のりは多難。プロジェクトのスタートから苦労は多かった。
「最初に大変だったのは人を集めること。最低でも必要な開発メンバーは約30名。社員以外にもパートナーを採用せねばならず、募集、面接、さらに採用後のレクチャーに至るまで、部署をあげて協力していただき、私の上司も直々に面接を担当してくれました。その甲斐あって、私はお客様やパートナーとの交渉に集中できたんです。」
このプロジェクトのステークホルダーは、初期段階からお客様、コンサル、他のシステム担当、開発に関わるベンダー…と数多く、それらの意見を調整するにも一筋縄ではいかなかった。 「詳細のニーズを各関係者にヒアリングするも、それぞれの立場によって当然ながら意見はバラバラ。ここで足を止めてはリリースに間に合わないと思い、要望を聞くよりも『こういうシステムにしましょう』という提案型で進めることで時間短縮を図りました。」
そのためHはメンバーと日夜、提案資料を作り込み、説明と交渉を行うという日々が続いた。お客様は新規顧客のため、顧客理解だけでも相当な時間を要する。しかし、ここで根気強くお客様やパートナーと向き合えたことで、全員のベクトルは徐々に定まっていき、要件定義、設計書がまとめられることとなった。

開発〜テストフェーズでは、宿泊施設向けシステム、コンシューマー向けシステム、現行システムと外部システムを接続する3つのチームに分けられ、各チームそれぞれにPMが立てられた。そしてその全てを率いるのがHだった。プロジェクトに一番精通しているHではあったが、新人PMがいきなり統括PMになるというのは、大抜擢であり異例なケースである。
「初めての統括PMではありましたが、これまでの経験と相手にとことん向き合うという自分のポリシーのもと、プロジェクトを進めていきました。限られた時間と人材でプロジェクトを前に進めるためにも、プロジェクトの可視化、お客様との情報共有のやり方、メンバー状況の把握…。できる限りの工夫を試みました。」
その1つが『承認プロセス体制』の導入。機能ごとに専任の有識者を選出してもらうことで、よりスピーディな状況共有、仕様の確認、承認が実現した。
さらに、一番多くの人が関わった4月のテスト段階では、PMはHを含めてMax6名、プロジェクトメンバーは50名に膨れ上がっていた。タイトなスケジュールの中で、誰もが休み時間を惜しんで仕事をしていたため、Hはできる限りメンバーのモチベーションの維持に注力し、現場の雰囲気にも細心の注意を払っていたという。
「メンバーを同じベクトルに向かわせるために、プロジェクトスタート時の『キックオフ』で行ったビジョンの共有を毎月全員集めて繰り返し行いました。お客様のプロジェクトに賭ける想い、将来の旅行業界の進化を支えるプロジェクトの意義を再確認するためです。また日報メールで作業の進捗や状況を全員に書いてもらうことで、現場の把握や意思疎通の判断材料として、メンバーの即時フォローにも努めました。」
まだゴールは見えない段階であっても、旅行代理店にとっての社運を賭けた新ビジネスをつくりあげるという責任、旅行業界に新風を吹かせるシステムを構築するという挑戦に、メンバーの気持ちは1つになっていった。

しかし、そこでシナリオを覆す予想外の事態が起こる。設計段階では認識の違いが起きないように、完成イメージをお客様に見てもらいながら進められていた。それにもかかわらずイメージの全貌が掴めるようになると、さらなるアイデアや要望があがってきたのだ。
「最終段階においての仕様変更は200近くにのぼり、メンバー全員に緊張が走りました。お客様としても社運を賭けたシステムへの強い想いから必死の懇願でもありましたが、すべて変更していては7月1日のリリースには間に合いません。私はリリースまでに変更すべき妥協点を探るための話し合いと、どこかのチームで必ず起きる問題の解決に奔走する日々が続きました。」
なんとか妥協点を見出すも、当然クレスコだけのテストではどうにも間に合わず、お客様もユーザーテストに参加。最終的にはメンバーや関係者全員が一丸となって助け合い、本気になって乗り越えたという言葉しか浮かばなかったという。

今年7月1日、いよいよサービス立ち上げの日、お客様からの「今までで一番スムーズにいったリリースだった」という感謝の言葉に、Hはホッと胸を撫で下ろした。運用後は、宿泊事業者からも「使いやすい」という言葉をいただき、リリース後の品質も高く評価されたことに対し、Hは「開発者冥利につきます」と笑顔で語った。
新たなビジネスモデルの核とも言えるこのシステムで、お客様である旅行代理店は、3年後までに数百億円の売上げ目標を掲げているという。このシステムに関わる顧客営業担当も当初は数十名だったが、現在では100名体制となり、今後の旅行市場を牽引するビジネスへの発展を目指している。
「まだ私たちはスタートラインに立ったばかりです。お客様の営業部隊と二人三脚でシステムを進化させて、このミッションも達成していきたいですし、さらに2020年のオリンピックや円安で旅行業界は盛り上がっていきますから、そこをクレスコのつくり出すITを活用したサービスで貢献していきたいですよね。」
今回の取り組みが高く評価されたことで、このシステムにおける改善や次の目標設定に向けた開発は、引き続きクレスコ主導で取り組むことが決まった。さらにお客様の社内でもクレスコの認知度は一気に高まり、このプロジェクト以外でも業務が広がる可能性は高いという。

今回、この大きな“信頼”をものにできたのは、決して自分の手柄だけではないことをHは身にしみて感じている。
「多くの方にサポートをしてもらったからこそ達成できましたし、自分自身も確実に成長することができました。そもそもこんなビッグプロジェクトを新人PMに思いきって任せてくれたことに感謝しています。また今回は、経験値の少ない若手メンバーに任せなければならない場面も多く、本当に苦労をかけました。しかしそんな状況の中でメンバー全員がどんどん成長してくれたことが、今回の成功の大きな一因になっています。」
顧客の前で堂々と説明を行う若手メンバー、10名ほどのメンバーを束ねる若手リーダーの台頭など、彼らの成長には目を見張るものがあったという。
「今後は一人じゃできない仕事を成し遂げることを通して、自分自身をもっと成長させていきたいですね。やはりこの規模のプロジェクトを堂々とこなしていくために必要なのは、テクニカルスキル、マネジメントスキル、先見力、統率力…、足りないものはいっぱいあります。次なる進化を追い続ける存在だからこそ、自分を磨き、進化させ続けなければなりませんね。」
最後に、こうも付け加えた。
「プロジェクト期間中は、休みの日に子供と公園に行っても、正直メールが気になって仕方がなかった(笑)。今後はもっとメリハリつけて、家族サービスにも力を入れていきたいですね。」

※内容はインタビュー当時のものです。

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