日本企業の成長戦略のひとつとして、グローバル展開が大きな注目を集め、それに伴い、海外展開を支援する「ITシステムのグローバル化」のニーズも高まっているという。彼が携わった日系メガバンクの“プーリング”システムのグローバル化もその一例だ。
「例えば、海外拠点のシンガポールで銀行口座の残高がプラスであれば利子がつき、香港の口座がマイナスであれば利息の支払いが生じます。このとき、シンガポールの余剰資金を香港の口座に移すことができれば利息の支払いは不要になる。こうした銀行口座間の“ムラ”を解消する仕組みを“プーリング”といいます。」
資金の集約・分配を行う“プーリング”システムのグローバル化は、事務手数料の削減、保有資金の有効活用にも繋がるため、海外拠点を持つ企業にとって、コスト削減効果は計り知れない。
「実は、グローバル案件は私の目標でもあって、期待に胸が躍りましたね。」
ところが、数多くの金融系システム構築を経験してきた彼の役割は、意外なことに設計でも開発でもなかった。
「求められたのは世界標準で機能するシステム。ですが、そのことにとらわれて、実際にシステムを使う各国の行員が使いづらいシステムをつくってしまったら、ユーザー(銀行員)のためにはなりません。そのため、複雑なプーリング手続きを担当する行員の業務プロセスを紐解き、システムに活かす。そんなユーザー目線での“システムの最適化”が私のミッションでした。」
これは彼にとって初の領域。金融系システム開発の知識だけでなく、また別の知識も求められる。国ごとに異なる勘定系システムや金融法規制などを理解するために、過去の資料や文献を読み漁り、10カ国にわたる各拠点のユーザー担当とテレビ会議やメールでコミュニケーションをとって、新システムを踏まえた行員の業務プロセスをどう対応させていくかを考えていった。
「国ごとに行員の手順や内容は異なります。そのため10カ国の各拠点は、自分たちのこれまでのやり方で主張をぶつけてきました。他国の拠点の意見に左右されて、自国拠点の効率が低下するのでは本末転倒ですからお互いに妥協もしない。国を超えて意識を統一していくというのは、実に根気のいる作業でした。」
最終段階では、ニューヨーク、シカゴ、トロント、ロンドン、バンコクなど各拠点に実際に赴き、世界のユーザーと実際に会って、直接話をした。
「顔を合わせて話せたことで細かな要望やニュアンスを互いに理解でき、信頼関係が深まりました。なにより我々が提案する業務プロセスを受け入れてもらえたことは大きな収穫。やはりシステムは人がつくり、人が使うもの。そう実感できました。」
学生の頃から“世界で通用するエンジニア”を目指していた彼にとって、この経験は大きな自信となった。
「正直、グローバルという点では私もクレスコもまだ発展途上です。でも、今回のプロジェクトでクレスコのレベルの高さを実感できました。世界で活躍する日本企業は今後も増えていきますから、そこに大きなビジネスチャンスがあります。今後は自ら海外案件を開拓して、様々な国で経験を積み、自分を磨いていきたいです。 将来的にはクレスコの海外支店の立ち上げや海外勤務にも挑戦したいですね。」
彼の飽くなき向上心が、クレスコと世界との新たな繋がりを紡ぎだす日もそう遠くはなさそうだ。
※内容はインタビュー当時のものです。